■ 正直に言います――私の思い込みが覆された日

先日、民間病院の団体が主催する「新たな地域医療構想」の勉強会に参加しました。県議・市議を対象に、病院経営の実態と、2040年に向けた医療体制の大転換を解説する場でした。

正直に言います。私はこれまで、医師という職業は金銭的に豊かで、どちらかというと優雅なものだと思っていました。

ところが、数字とともに突きつけられた現実は、まったく違うものでした。診療所の先生方はともかく、病院で働く医師や看護師の多くは、休む間もなく過酷な現場に立ち続けている。待遇面でも、他の産業に比べて決して恵まれているとは言えない実態がありました。その現実を目の当たりにして、自分の認識を完全に改めることになりました。

—

■ 病院は「頑張っても赤字」になりやすい仕組みにある

なぜ病院は苦しいのか。その根本には、「診療報酬」という仕組みがあります。

病院が提供する医療サービスには、国が決める公定価格があります。病院は自分で値段を上げることができません。たとえて言えば、ガソリンスタンドの値段を国が決め、仕入れ値も人件費も上がっているのに、値上げを認めてもらえない状態です。

賃上げや物価上昇によって、診療のコストは年約3.1%増えています。一方、2024年度の診療報酬の実質的な引き上げは年平均0.44%にとどまりました。この差が積み重なり、医業が赤字の病院は2018年度の55%から、2024年度には69%にまで増えています。

勉強会では「救急車を受けるほど赤字になる場合もある」という言葉も出ました。これは民間病院側からの見方ですが、数字はそれを裏付けています。

また、病院職員のベースアップの見込みは2025年度で約1%。全産業平均の3.7%には遠く届かず、人材の確保はますます難しくなっています。

—

■ 2040年に向けて、地域の病院の役割が大きく変わる

このような経営の苦境を背景に、国は「新たな地域医療構想」を打ち出しました。

その背景にあるのは、社会構造の大きなねじれです。

  1. 若い世代が急速に減る 2040年に18歳になる人は、現在の3分の2以下になると推計されています。
    • 病院を支える看護師・事務職の確保が、すでに困難になっています
  2. 増えるのは高齢者、しかも都市部で 2015年から2040年にかけて、65歳以上の人口は全国で534万人増えます。
    • そのうち約80%は、民間病院が救急搬送の半分以上を受け入れている都市部の都道府県に集中します
    • 愛知県もその一つです
  3. 病気の中身が変わる 増えるのは肺炎・骨折・尿路感染など、高齢者に多い病気です。
    • 高度な手術や救急の症例は、逆に今後減っていきます

この現実に対応するため、構想では病院の役割を大きく四つに再編します。手術や救急を集中的に担う「急性期拠点」は人口20~30万人に1か所程度に絞り込まれます。残りの病院は、高齢者救急の受け皿や、在宅医療との連携など、それぞれの地域に根ざした役割へと転換していく方向です。

2040年の必要病床数は全国で約106.9万床と試算されており、現在の約116.4万床から絞り込まれます。どの病院がどの役割を担うかは、2028年を目標に地域の話し合いで決まります。猶予は、わずか2年です。

—

■ 愛知県で問われること

愛知県は、高齢者がこれからも増え続ける地域です。この構想を実際に動かしていくうえで、少なくとも次の課題が連動して問われます。

  1. 急性期拠点の絞り込みと、住民への説明 どの病院が「中心病院」となり、どの病院が役割を転換するのか。拠点から外れた地域の住民には、丁寧な説明と対話が欠かせません。これは、病院の経営判断だけでは決められない。政治が正面から向き合うべき問題です。
  2. 経営が苦しい民間病院の持続可能性 高齢者の救急を担う中小の民間病院が経営悪化によって減れば、役割分担そのものが崩れます。手術を伴わない高齢者の肺炎を、大病院が受け続ければ、医療費の負担も跳ね上がります。民間病院への支援のあり方を、県として真剣に考えなければなりません。
  3. 医師・看護師の確保と配置 構想で役割を決めても、担う人がいなければ「絵に描いた餅」になる。この言葉が、勉強会の質疑の中で出ました。総合的に高齢者を診ることのできる医師の育成と配置を、大学や市町村とともにどう設計するか。県の本気度が問われます。

私が今、自問しているのはこの一点に尽きます。地域医療を持続可能にしていくための手筈を、愛知県として本当に整えられているのか。 構想を描くことと、それを動かすことは、まったく別の話です。その危機感を持ち続けながら、県議会で取り組んでいきます。

—

■ あなたにも、当事者として考えてほしい

いつも通っている病院の役割が変わる可能性は、決して遠い話ではありません。

「今の病院で、今と同じ医療が受けられる」とは限らなくなる時代に、私たちは入りつつあります。それは「病院が減る」という単純な話ではなく、何を残し、どう役割を分けるかを、地域全体で選び取っていくという話です。

地域の医療をどう守るかは、病院だけの問題でも、行政だけの問題でもありません。県民の皆さまと一緒に考えるべきことだと、確信しています。